酸化脂質は一括りに「悪い」ではない?

食用油脂を加熱すると、さまざまな酸化脂質が生成することが知られています。

私たちの研究室では、その中でも 「エポキシ脂肪酸」 に注目し、加熱油脂中での生成と体内での振る舞いを明らかにしました!

まず、油脂を加熱した際には、オレイン酸由来の エポキシステアリン酸(epoxy-C18:0)が生成することを確認しました。

このエポキシ脂肪酸には シス型(下図左)とトランス型(下図右) の2種類がありますが、特に高温加熱では トランス型が優先的に生成 することがわかりました。

「エポキシ」と聞くと、エポキシ樹脂を思い浮かべる方もいるかもしれません。しかし、今回の研究で扱っているのは樹脂ではなく、脂肪酸に“エポキシ基”という官能基(上図のOを頂点とした三角形の構造)がついた化合物 です。

では、こうしたエポキシ脂肪酸を体が摂取するとどうなるのでしょうか?

この疑問を解くために、研究室では動物試験を実施しました。

その結果――

エポキシ脂肪酸は通常の脂肪酸よりもエネルギーになりやすく、体内に蓄積しにくい ことが明らかになりました!

今回の研究で特に重要だったのは、酸化脂質といっても、その全てが体に悪いわけではない という点です。

一般的には「酸化脂質=健康に悪い」というイメージが広く浸透しています。しかし私たちが加熱油脂中のエポキシ脂肪酸を詳しく調べた結果、

酸化脂質の中には、体にほとんど悪影響を与えないもの、さらには通常の脂肪酸より代謝されやすいものが存在する ことが示されました。

つまり、酸化脂質は “量” だけでなく “質(どんな種類か)” を考えなければ正確な健康影響評価になりません。

私たちの研究は、従来の「酸化=悪」という固定観念を見直し、酸化脂質の性質を細かく整理した新しいリスク評価の必要性 を示すものです。

油脂の安全性を科学的に評価するために、これからも「量」と「質」の両側面から研究を進め、安心して食べられる食の実現に貢献していきたいと考えています!

吉永