親知らずと脂肪酸 ― 抜歯後に体内で起きていること

昨日、親知らずを抜きました。
抜歯そのものは無事に終わったのですが、その後しっかりと「腫れ」「熱感」「痛み」 がやってきました。

そこで処方されたのが、解熱鎮痛剤であるロキソニンです。
おかげさまで、私は今日もなんとか出勤できています。

さて今回は、抜歯後に生じる炎症反応と、それに対する解熱鎮痛剤の作用を、
アラキドン酸カスケードという生化学の視点から、
できるだけシンプルに 3ステップ で整理してみたいと思います。

抜歯後の炎症反応は、こうして始まる

ステップ①:脂肪酸の放出(炎症のスタート)

親知らずの抜歯は、歯肉や骨、血管にまで及ぶ小さな外科手術です。
その結果、局所の細胞が物理的に損傷します。

細胞の膜には脂質が多く含まれており、組織が傷つくと、細胞膜のリン脂質から ホスホリパーゼA₂ によって
アラキドン酸 という脂肪酸が切り出されます。
ここが、炎症反応の出発点です。

ステップ②:COXによる炎症物質の産生

放出されたアラキドン酸は、シクロオキシゲナーゼ(COX) という酵素によって代謝され、
プロスタグランジン(PGE₂ など)、プロスタサイクリン(PGI₂ など)、トロンボキサン(TXA₂ など)といった
生理活性物質に変換されます。

中でも重要なのが プロスタグランジン PGE₂ です。
PGE₂は、血管を拡張し、痛覚や体温調節に作用することで、腫れ・痛み・熱感を同時に引き起こします。

つまり、抜歯後の腫れ・痛み・熱感は、プロスタグランジンの働きそのものというわけです。

こうしたプロスタグランジンの作用は、一見ネガティブなイメージを持たれがちですが、
損傷部位に免疫細胞や修復因子を集め、組織修復を進めるために重要な役割を果たしています。

ステップ③:解熱鎮痛剤の作用機序

解熱鎮痛剤の作用点は明確で、COXを阻害することです。

アラキドン酸 →(COX)→ プロスタグランジン

この「→」の部分を止めることで、結果として腫れ・痛み・熱感をまとめて和らげます。

「炎症を止めてしまっていいの?」という疑問

ここは、よく聞かれる疑問です。
結論から言えば、炎症そのものは組織修復に必要な反応ですが、過剰な炎症は体にとって負担になります。

ロキソニンなどの解熱鎮痛剤は、炎症を完全に消し去る薬ではありません。
アラキドン酸から炎症物質が作られる過程を部分的に抑えることで、行き過ぎた反応だけを和らげます。

そのため、痛みや腫れを無理に我慢する必要はなく、医師の指示に従って使用する限り、
炎症反応そのものを妨げてしまう心配はほとんどありません。

おわりに

親知らずの抜歯は、普段は教科書の中にある「炎症反応」を、
自分の体でリアルタイムに体験できるイベントでもあります。

腫れや痛みはつらいですが、その裏ではアラキドン酸カスケードが粛々と働き、
組織の修復が進んでいます。

次にロキソニンを飲むとき、「あ、今COXが止まってるな」
と思い出してもらえたら嬉しいです。

吉永

とはいえ、痛いもんは痛い。。。