◆加熱油脂中におけるエポキシ脂肪酸の生成
食用油脂は、加熱や長期保存の過程でさまざまな酸化脂質を生み出します。
多くの人が「酸化脂質=健康にとって悪」と思いがちですが、実際にはその“種類”や“構造”によって体内での振る舞いや影響が大きく異なります。
本研究では特に、脂肪酸内に三員環状の「エポキシ基」をもつ エポキシ脂肪酸 に着目し、 加熱油脂中での生成機構を明らかにしてきました。
例えば、加熱された油脂中では、オレイン酸が酸化を受けてエポキシステアリン酸(epoxy-C18:0)となります。この化合物には「cis型」「trans型」の2種類が存在し、我々の研究では高温加熱条件では“trans型が優先的に生成する”ことを実験的に示しました(図1)。【公開論文】

図1 エポキシ脂肪酸の構造
◆エポキシ脂肪酸の体内動態
では、こうした脂質を体が摂取するとどうなるのでしょうか。
そこで、動物試験およびGC–MS解析により、エポキシ脂肪酸は一般的な脂肪酸に比べて 蓄積されにくく、エネルギー代謝として消費されやすい という意外な体内動態が明らかになりました(図2)。【公開論文】

図2 エポキシ脂肪酸の体内動態
これは、「酸化脂質=すべて悪い」という従来イメージとは異なる重要な知見です。
本研究で特に重要だった点は、
● 酸化脂質の中には、健康影響が小さいもの、むしろ代謝されやすいものも存在する
● 酸化脂質の“種類(質)”を区別しなければ、正確なリスク評価にならない
という事実です。
油脂の安全性を科学的に評価するためには、「どれだけ(量)」だけでなく「どんな種類(質)」の酸化脂質が含まれているかを丁寧に分析する必要があります。
当研究室では、こうした視点に基づき、酸化脂質の生成機構・体内動態・生理作用を総合的に評価し、「酸化=悪」という固定観念を超えた新しいリスク評価の枠組みづくりに取り組んでいます。
