◆ バター・マーガリン・牛肉に含まれるラクトン組成の網羅分析
バターや牛肉特有の甘い・ミルキーな香りには、C6〜C16 の γ-ラクトン・δ-ラクトンが寄与します(図1)。

図1 ラクトンの構造と香りの特徴
当研究室では、GC–MS を用い、C6〜C16 の全ラクトン類を高感度で定量できる“食品香気の指紋分析法”を開発しました。
主要成果は、以下のとおりです(図2)。
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乳脂肪の芳醇な香りは、δ-デカラクトン、δ-ドデカラクトン、δ-テトラデカラクトン、δ-ヘキサデカラクトン、γ-ドデカラクトンが主に寄与。【公開論文】
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マーガリンはメーカーによりラクトン組成が大きく異なる。⇒ 香料の使用が示唆。【公開論文】
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牛脂(牛肉)では産地によって、 γ-/δ-ラクトン組成が異なる。【公開論文】
食品の香りを“化学的な指紋”として比較できるようになり、品質評価にも応用されています。

図2 バターとマーガリンのラクトン組成
◆ ラクトン前駆体(ヒドロキシ脂肪酸)が結合した TAG の分析法
ラクトンは、反芻動物の第一胃(ルーメン)に存在する細菌によって産生されるヒドロキシ脂肪酸(ラクトン前駆体)が環化することで生成します。
しかし実際の食品中では、ヒドロキシ脂肪酸 の多くは TAG に結合した形(ヒドロキシ脂肪酸結合TAG)として存在しますが、その直接定量は検出が困難でした。
当研究室では、ヒドロキシ脂肪酸結合TAG を LC–MS/MS で定量する新規分析法を構築し、乳脂肪中にヒドロキシ脂肪酸結合TAGが存在することを世界で初めて報告しました(図3)。【公開論文】
これにより、「バターおよび牛肉のラクトンがどのように生成するのか」を前駆体レベルで精査できる分析基盤が整備されました。

図3 バター中に含まれるヒドロキシ脂肪酸結合TAG
◆ ラクトン鏡像異性体(R/S)の分析と生成機構の推定
ラクトンは、R体・S体の鏡像異性体(エナンチオマー)を持ち、香りの質に影響するだけでなく、R/Sの比率が“生成由来の手がかり”になることが知られています。
当研究室では、キラルGCカラムを用いたラクトンの鏡像異性体分析法を構築し、以下の成果を得ました(図4)。【公開論文】,【公開論文】
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バターや牛肉に含まれる γ/δ-ラクトンの R/S 比を世界で初めて詳細に測定。
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γ-ラクトン類は熱酸化で生成した場合、ラセミ体(R/S = 1/1)となる。
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生物由来(酵素由来)のラクトンとは明確に区別可能。
これにより、食品中のラクトンが“加工中にできたのか/生物由来のものか”を判別可能になりました。これは、食品加工の香りメカニズムを解明するうえで非常に重要な技術です。
図4 ラクトン鏡像異性体の生成経路(上:生合成、下:脂質酸化)
◆ SAFE を用いた植物油(コーン油)の香り成分の解明
植物油は無臭と思われがちですが、実際には微量揮発性成分がその香りの個性を形づくっています。
当研究室では、SAFE(Solvent-Assisted Flavor Evaporation)による低温・高真空抽出を用いることで、熱変性のない“本来の香り”を抽出する分析系を構築しました。
コーン油の SAFE 抽出物を GC–MSで解析した結果、以下の成分が コーン油特有の甘い香りを形成していることが明らかになりました(図5)。【プレスリリース】
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バニリン
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γ-ラクトン類
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フェニルアセトアルデヒド
これらの成果は、コーン油特有の風味の科学的理解を進め、食品分野での油脂の新たな活用に貢献すると期待されます。

図5 コーン油とキャノーラ油の成分比較

