透明なのに醤油?―その製法を食品化学から考察する

熊本の醤油メーカーであるフンドーダイ株式会社が販売している「透明醤油」という一風変わった調味料が注目を集めています。
見た目はほとんど水のように無色透明でありながら、しっかりと醤油の風味を感じることができる、不思議な食品です。

先日、ネット通販で入手してみたのですが、現在は研究室メンバーで楽しみながら使っています。

刺身や寿司に使っても食材の色を変えないため、料理の見た目を崩さないのも面白いポイントで、そのユニークさから話題になるのも納得です。

一方で、「なぜ醤油が透明になるのか?」という点については、製造方法が詳しく公開されているわけではなく、気になるところでもあります。

そこで今回は、公開されている記事や特許情報などを手がかりに、食品化学の視点からその仕組みを考えてみます。
※本記事は公開情報をもとにした推測を含みます。実際の製法とは異なる可能性がありますのでご了承ください。

醤油の「色」の正体

まずは、普通の醤油がなぜ黒っぽい色をしているのかを考えてみます。

醤油の色は、発酵や加熱の過程で進む「メイラード反応」によって生まれます。
この反応によってできる「メラノイジン」と呼ばれる物質が、あの特徴的な褐色の正体です。

メラノイジンは、アミノ酸と糖が反応してできる複雑な高分子で、醤油に深みのある色合いを与えています。

つまり醤油は、単一の成分ではなく、
・アミノ酸などの旨味成分
・揮発性の香り成分
・メラノイジンなどの色素成分
といった、性質の異なる成分が混ざり合った液体です。

この「成分ごとの性質の違い」が、透明醤油の仕組みを考えるうえで重要なポイントになります。

減圧濃縮を利用した分離

透明醤油の製法として、インタビュー記事などで言及されているのが、特許技術の「減圧濃縮法」です。

減圧濃縮とは、圧力を下げることで液体の沸点を低下させ、比較的低温で揮発成分を取り出すことができる操作です。
食品分野では、香り成分をできるだけ損なわずに回収する方法として広く使われています。

この操作を醤油に適用すると、次のような分離が起こると考えられます。

まず、揮発しやすい香り成分が優先的に取り出され、「香りを含む濃縮液」として回収されます。
一方で、メラノイジンのような高分子の色素や旨味成分は揮発しないため、元の液体側に残ります。

その結果、醤油は
・香り成分を多く含む画分(ほぼ無色)
・香りが抜けた一方で色素や旨味成分を含む画分(褐色)
の2つに分かれると考えられます。

色の除去と透明化

次のステップでは、色素を含んだ画分に対して脱色処理を行います。

ここから先はかなり推測になりますが、活性炭による吸着や膜分離といった方法を使えば、
アミノ酸や有機酸などの旨味成分は残しつつ、メラノイジンのような色素成分を取り除けるのではないかと考えられます。

こうした処理を行うことで、もともと褐色だった液体は無色に近い状態となり、旨味への影響を抑えつつ「透明化」が達成されると考えられます。

香りの再構成

そこで最後に行われるのが、「香りを戻す」工程です。

減圧濃縮の段階で回収しておいた香り成分を、脱色後の透明な液体に再び加えることで、
見た目は透明でありながら、しっかりと醤油らしい香りを感じる状態を再現することができます。

このプロセスによって、
・色(メラノイジン)
・香り(揮発成分)
をいったん分離し、その後に必要な要素だけを組み直す、という設計が実現されていると考えられます。

まとめ

透明醤油は、見た目のインパクトだけでなく、食品の構成要素をどのように扱うかという点でも、とても興味深い存在です。
普段何気なく使っている調味料も、その中身を分解してみると、分離や再構成といった考え方につながっていることが見えてきます。
「透明なのに醤油の味がする」――その不思議の裏側には、食品化学の面白さが詰まっています。

フンドーダイ株式会社は、醤油という伝統的な調味料をつくる、創業157年を迎える企業でありながら、
「醤油は色がついているもの」という既存の概念にとらわれない、非常にチャレンジングな取り組みを行っている会社だと感じます。
また近年では、醤油をムース状にした「Foam」や、醤油や味噌をシート状に加工した「Leaf」など、新しい発想の商品も展開しており、
研究者の立場から見ても大変興味深く、刺激を受けます。

伝統と革新を両立させるこうした取り組みは、食品の可能性を広げるうえでも示唆に富むものです。

透明醤油をきっかけに、身近な食品の「中身」にもぜひ目を向けてみてください。きっと新しい発見があるはずです。

※本記事は特定企業からの提供・依頼によるものではありません。

吉永