「しらす」に混入したフグ稚魚は、安全か?

 

今回はいつもと趣向を大きく変えて、フグの毒について紹介します。

まず、「しらす」とは、ウルメイワシ、カタクチイワシ、マイワシ、シラウオ、イカナゴ、ウナギ、アユ、エソなどの
体が無色透明な小魚を総称した呼び名です。

これら、しらすの加工品の中に、小さなエビやカニなどが混じっていることがあります。
(現在は選別技術の向上により、こういった「しらす」以外の生物はあまり含まれていないかもしれません。)

図1 しらす加工品と混入していた生物

 

しかし、こういった「しらす」の加工品にフグの稚魚が混入することがあります。

2014年の夏ごろ、テレビや新聞でフグ稚魚がしらすに混入していた事例が多く報道されましたが、
覚えておられる方はいらっしゃいますでしょうか・・・。

 

行政としては、フグは、稚魚であっても毒をもつ可能性があるため、フグ稚魚の混入した「しらす」が流通しないよう注意喚起を行っています。

また、食品衛生法第6条(不衛生な食品又は添加物の販売等の禁止)に違反する疑いがあることから、販売店舗に対して消費者への告知及び当該商品の
回収を指示しています。

ただし、近年、フグ稚魚が混入したしらす加工品が市場に流通することは、ほぼありません

これは、光センサーを用いた光学選別機の導入や、加工業者による徹底した目視選別と品質管理が行われているためです。

図2 しらすに混入していたフグ稚魚(背側が黒い魚はほとんどがフグの稚魚)

 

フグ稚魚は、母親から受け継いだフグ毒(テトロドトキシン、TTX)を、孵化後数週間に渡り保有することが分かっています。

ということは、しらすに混入しているフグ稚魚も、TTXを持っている可能性はあります。

しかし、こういったしらす加工品に混入したフグ稚魚の毒性や種類については、ほとんど報告がなく、
混入したフグ稚魚を誤ってヒトが摂取した際の健康への影響は不明でした。

以下に、2014~2017年にしらすに混入していたフグ稚魚の種類とTTXの含有量を調べてみましたので、
そのデータの一部を抜粋して紹介します。

 

①しらすに混入したフグ稚魚の種類

しらすに混入していたフグ稚魚は、加工後なので図2のように乾燥または半乾燥された状態です。

こういった乾燥品でもDNAを調べることで、フグ稚魚の種類を調べることができます。

その結果、多くが図3のような無毒のシロサバフグでした。

図3 しらすに混入したフグ稚魚(シロサバフグ)

 

しかし、有毒種のフグ稚魚も混入しており、シマフグ、コモンフグ、ナシフグヒガンフグコモンフグ、ナシフグ、クサフグ、トラフグショウサイフグなども検出されました(図4)。

図4 しらすに混入したフグ稚魚(有毒種)

 

これら有毒種のフグは、成魚ではとても強い毒性(TTX含量が高い)をもつことがわかっています。

ということは、稚魚でも毒性をもつ可能性があります。

②しらすに混入したフグ稚魚の毒性

次に、有毒種と判定されたフグ稚魚のTTX含量を調べました。

図5  しらす加工品に混入したフグ稚魚のTTX含量

 

シマフグ、コモンフグ、ショウサイフグ、トラフグから0.06~3.32 μg/gのTTXが検出されました(図5)。

つまり、しらす加工品に混入したフグ稚魚は、TTXを保有していることが明らかになりました。

 

問題は、検出されたTTXの量0.06~3.32 μg/gはヒトに対して毒性を発揮する量なのか?です。

 

日本では、約2.2 μg TTX/gを超えたものを【有毒】とするので、これに従えば図5より4匹は有毒と判断されます。

ただし、【有毒】と判定されても、その濃度自体が直ちにヒトの致死量を意味するわけではなく、食品としての安全性を確保するための基準値です。

 

本研究で解析したフグ稚魚の平均重量は、1個体あたり86 mgでした。

例えば、検出された最大TTX濃度3.32 μg TTX/gをもつフグ稚魚(86 mg)が混入し、摂取したと仮定した場合、
フグ稚魚1個体に含まれるTTX量は約0.286 μgと推定されます。

一方、ヒトにおけるTTXの推定致死量は約1~2 mgとされており、TTX量約0.286 μgはその約3,500~7,000分の1です。

 

このことから、本研究で対象としたフグ稚魚を誤って1個体摂取した場合でも、TTXによる重篤な健康被害が生じる可能性は極めて低いと考えられます。

また、しらす加工品へのフグ稚魚の混入状況を調査した結果、しらす加工品38.7 kgに対してフグ稚魚1個体が確認されました。

この結果から、しらす加工品へのフグ稚魚の混入頻度はかなり低いことが分かります。

 

ただし、フグ稚魚の毒性や毒量に関する知見は依然として限られています。

そのため、しらす加工品の安全性をより適切に評価するためには、今後も継続的なモニタリングとデータの蓄積が重要であると考えられます。

 

「しらす」に混入したフグ稚魚は、安全か?

結論として、フグ稚魚が混入したしらすによるフグ毒中毒の可能性は極めて低く、健康に被害を与えることはないと考えられます。

また、加工業者の努力もあり、フグ稚魚がしらす加工品に含まれる可能性は極めて低くなっています。

安心してちりめん、じゃこ、釜揚げしらすなどの「しらす加工品」をお召し上がりください。

 

桐明